月神の弓とは・1

    『月神の弓』とは、月の神マーニが持っていた弓のことである。この弓に番える矢は「銀の矢」と呼ばれる特殊な矢で、戦や狩猟、時には人間の裁きにも使われた。しかし、この弓は一つの悲劇を呼ぶこととなる。

    マーニは元々、他の名前の人間だったと言われている。しかし、月を意味する「マーニ」と勝手に名乗ったことから、神々の逆鱗に触れ銀の馬車を操り月灯りを照らす役割を担うこととなり、女神の一人となった。彼女は純粋無垢な、有り体に言えば精神的に未熟な少女だった。太陽の神である姉ソールに憧れ敬愛し、彼女は自らも生涯、結婚をしないと誓いを立て、彼女の従者たちも独身を守り続けさせたのである。彼女の結婚観念については次のエピソードがある。

    ある日、オーディンが彼女の従者の一人を側室に向かい入れた。それを聞いたマーニは激怒し、従者を雌熊に変え、そして彼女から生まれてきた息子に殺させている。またある日には、猟犬を連れた男がマーニの沐浴姿を偶然にも覗いてしまい、それに気づいた彼女は激怒し男を鹿に変え、彼が連れてきた猟犬に襲い殺させたのである。この二つのエピソードから如何にマーニが結婚や自身

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