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コーヒーを飲み干して、織歌はゆっくりとうなずいた。
ふと、職員室の窓の向こうに、この学苑の生徒がふたり、仲良くじゃれあっている様子が見えた。

「……」

ショートボブの女の子と、両サイドをオダンゴの形にした、髪の長い女の子。
見覚えのあるヘアスタイルに、織歌は詰めていた息をゆっくりと吐き出した。

「そうか……」

……あの人にも、あんな風に仲良しの友達がいるんだ。
同じフォルテール奏者だからという理由だけで、自分と比べるのはおかしいかもしれないが、この学苑に入れば、もしかしたらあんな風に笑ってじゃれ合える友達ができるかもしれない……。
そんなことを考えながら、学苑案内に出るというスミス先生の後に従って、ソファから立ち上がった。

特待生候補ということで、織歌の時間は他の生徒より多めに取られていたらしい。
スミス先生に説明をされながら、校舎、校庭、講堂などを見て回る。
歴史を感じるそれなりの古さはあるものの、建物自体には生徒や学苑のスタッフの愛着が見られる。

「アタシの権限では寮まで案内はできないのだけれど……ミス二波は入寮希望でしたわよね?」
「ええ、寮に入った方が、より早くこの学苑に馴染めるような気がするので」

そう答えると、スミス先生は大きくうなずいてくれた。
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「良い心がけですね。
寮生活はあなたにとって良い経験になるでしょう」

その微笑みに、織歌の心が軽くなった。
ふと、この先生なら、という思いが持ち上がり、織歌はひとつの質問をしてみることにする。

「あの……正直に告白します。
わたしは今の中学で、良好な人間関係を築くことができませんでした。こんなわたしでも、この学苑で楽しくやっていくことができるでしょうか?」

いきなりの告白めいた質問に、スミス先生は、驚いたようだ。
目を丸くして織歌を見た後、穏やかな微笑を浮かべた。

「正直なんですね、ミス二波は。
安心しなさい、あなたの努力はきっと報われますよ」
「……」

言葉がすとんと胸に響く。

「あなたは素直な子なのね。
この学苑では、なまじ音楽に才能があったばかりに、普通科の学校では人間関係に支障が出るような子でも、普通の女の子として学苑生活を楽しんでいるようです。校則は他の学校に比べると厳しいかもしれないけれど、あなたが努力する限り、学苑の教師も生徒会も、あなたに協力するでしょう」
「……」
「あとは……そうね。アタシから一言。
『他人だけじゃなくて、自分にも優しくあれ』。
優しさって、他人と分け合うと、すごく幸せな気分になれるの。それは、優しいと思う感情がどんどん増えていくからなのね」

スミス先生の言葉に、じわじわと胸の中が暖かくなってゆく。
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