『友達というもの 1』

未羽が進路指導の担当教師に願書を提出したその日。
放課後、自宅へまっすぐに帰ろうとした未羽は、はたと足を止めた。

「そうだ! ゆうなさんに会いに行こう!」

その声に驚いたらしく、バスを待っていた人がギョッとして未羽を見たが、気にせずに、そのまま駅構内へと駆けてゆく。
ライブをやっているかも、会えるか会えないかさえもわからなかったが、とにもかくにも、あの悪戯っぽくも優しい微笑みを浮かべる年上の人に会いたかった。
会えなくても、あの人を感じられる空気に触れたかった。
話したいことはたくさんある。

「待っててね、ゆうなさーん!」

未羽の足は軽く、折りよく、ホームに滑り込んできた電車に駆け込んで、車内アナウンスに当て付けのように注意されてしまった。

 ☆ ☆ ☆

 那宮駅前南口ロータリー、いつもの場所で、目的の人物はフォルテールの準備をしている真っ最中だった。

「ゆうなさーん!」

定期入れをカバンにしまう間も惜しんで、未羽はゆうなに駆け寄った。
未羽の声に気づいたゆうなも、準備の手を止めて、にっこりと未羽に微笑みかける。

その微笑みが嬉しくて、未羽はその勢いのまま、がしっとゆうなに抱きついた。

「あはは、こーら、未羽ちゃん!」

たしなめるような口調ではあったが、ゆうなも未羽の身体を抱きとめてくれたことが嬉しくて、未羽は更にぎゅーっと抱き締める腕に力をこめる。
ゆうなの身体は華奢ではあったが、それでも未羽よりは大きくて、しなやかさが感じられた。

「いいなー、ゆうなさん」

ゆうなの身体から腕を放しながら、ポツリと未羽が呟く。

「どうしたの、未羽ちゃん?」
「だって、アタシ、小さいもん……」
「え?」

首をかしげるゆうなに向かって、ぶーと唇をとがらせてみた。

「小さい身体って声楽には不利だって、音楽のセンセが言うんです」

未羽の言葉が、意外だったようだ。
ゆうなは目を丸くする。
そのまま黙っていると、未羽はマシンガンのように日頃の不満をぶつけてきた。

「でも、小さいのなんて、あたしのせいじゃないもん。  あたしだって、大きくなれるんなら大きくなりたいもん!  そうすれば、満員電車で埋もれちゃって、通勤のおじさんたちに潰されることもなくなるでしょ?  こないだなんて、ふくらはぎを踏まれちゃったんですよ、足を踏まれるのも嫌ですけど、ふくらはぎですよ、ふくらはぎ!
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