ゴーイング・マイ・ウェイ

「あなたの入学式の2日前よ。  たぶん、夏休みくらいには、遊園地にいけるくらいには復活しているはずよ。  ジェットコースターに乗れるかどうかは、担当の先生に聞いてみないとわからないけどね」

かなり前に、小夜子本人から心臓の持病のことを聞いていた。
完治させるには手術するしかないが、ハイリスクな手術なので、日常生活には支障はないことに甘えて放置していることを。
つまり、平穏な日々を過ごせば、生死を賭けずとも、心臓が老いるまで、平和な日々は送れるのだと。
手術の成功の可能性を聞こうとして、織歌は口を開いた。
が、織歌は別の言葉を口にする。

「だとしたら、今年の夏休みは、いろいろな予定で忙しくなりそうです。  学校の友達に、フォルテールを聞かせる約束もしているので」

潤む目を誤魔化しながら、慣れない微笑みを浮かべようと頑張ってみる。
手術の成功率を聞くなんて、ナンセンスだと思った。
成功率が低くても高くても、織歌にできることは祈ることだけなのだから。
織歌の内心の葛藤を知っているのか、クスッと小夜子が小さく笑う。

「それにしても、織歌に友達ができるなんてね。  あなた、成長したのね……」
「はい、先生のおかげです」

織歌の言葉を聞いて、小夜子ははっきりと苦笑した。

「わたしの、ではなく、かぐらさんの、でしょう?」

小夜子の笑いに、織歌はゆるゆると首を横に振る。

「いえ、わたしがかぐらさんの演奏を知ることになるきっかけを作ったのは先生です。  先生には、わたしが勇気を出して一歩を踏み出した結果を見るという責任があります。  なので、必ず、戻ってきてくださいね」
「逃げられそうにないわね」
「もちろんです。  わたしは執念深い女なので、逃がすつもりはありません」

くすくす笑う二人。
常にない充実感に満たされて、織歌はフォルテールに向き合った。
入学式まであと少しだが、それまでに少しでも上達するために。

< 続く >
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