〜第一章〜
「修行だよ、マールちゃん。遊びに行くんじゃないんだよ」
「固いことは言いっこなし!楽しまなきゃソンソンだよ!」
マールの方は良くも悪くも何も考えず行動に移すことが多い猪突猛進型。 世話好きな面もあるものの計画性はまるでない。 小さなことはまるで気にしない大らかな性格でいつも輪の中心にいることが多い。
「いいなぁ〜マールちゃんはノーテンキで。リルテは初めて行くお家で夏休みの間中暮らすなんて緊張しちゃうなの…」
「リルテだって十分ノーテンキじゃん!ドジが出ないか心配なだけでしょー?緊張するなんてガラにもないこと言ってくれちゃってー」
「ムッ!そんなことないもん!リルテはとっても“せんさい”な性格の持ち主なの。毎日駆け回って一日一回何かを壊す誰かさんとは違うなの」
「ムムッ!壊してないよ!ちょっと傷がついたりちょっと折れたりするだけだよ!リルテだってこの間教室の花瓶割っちゃったじゃん!」
「ムムムッ!あれはお掃除中にマールちゃんがほうきを振りまわしてたからでしょー!」
マールとリルテがみたび言い合いを始めてしまった。いつもこんな感じだが二人は大の仲良しだ。
止めるのをあきらめたシェルは丘から見える校舎を見降ろした。
「修行か…」
ポツリとつぶやいた一言でマールとリルテの言い合いが止まった。
「シェルちゃんでも不安なの…?」
リルテは心配そうにシェルを見ている。マールもいつになく真剣なまなざしをシェルに向けていた。
「不安でない、と言えば嘘になってしまうわね。わたしをきちんと受け入れてくれるか分からないし…」
シェルは素直に二人に告げた。しばし、三人の間に沈黙が流れる。静かな空気に耐えられないのか、ひと際大きな声で マールが沈黙を破った。
「でもさでもさ、シェルだったら絶対大丈夫だよ!成績優秀だもんね。修業もバッチリ成功するよ!」
「そうだといいのだけれど…。それにこの修行に成績は関係ないわ。しっかりと自分を見つめることが一番重要なことだと思うの」
「自分を見つめること…。シェルちゃんは女王候補だもんね。いろんなことを考えないといけないから大変なの」
「それだけなのかなー?」
「え?」
マールがじっとシェルを見つめている。いつも明るく元気で何も考えていないように見えるマールだが、カンは鋭い。
「何か隠してるでしょ?このマールさんの目はごまかせないよー」
古くから王室関係者を輩出している由緒ある貴族の娘として生まれたシェルは、子供のころから女王候補になるべく育てられてきた。 姉妹もいないため、物事を誰にも相談せず一人で抱え込むことも多い。
大家族の中で育ったマールや音楽家の家庭で自由に伸び伸びと育てられたリルテと少し事情が異なる。
マールが言った通り、確かにシェルには隠しごとがある。
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