「もう、マールちゃん。誰にでも言いたくないことはあるなの。無理に聞きだすのは良くないことなの」
マールとリルテはシェルの隠しごとの中身に気付いていた。
そしてシェルがまだそれを話したくないと思っていることも感じている。
ただ、マールは仲の良い自分たちにシェルが素直に話してくれないことを不満に思っている。
だからカマをかけてみたのだ。
「ううん。いいのよ、リルテ。ごめんねマール。もっと、もっと見つめたいの」
「自分を?」
「ええ。自分を。……フフッ、とてもうれしいわ。わたしを分かってくれている人がいるって」
「変なシェル。まだ素直に話せないって言ったばっかりじゃん」
「フフッ。そうね。おかしいわね」
リルテは音楽家の家に育ち、音楽を心から愛している。音楽のない生活など耐えられないくらいだ。
その分、好きなものに向き合っている表情ははっきりと分かる。
ベンチに置かれたシェルのスケッチブック。リルテたちが来る前に風景を描いていたのだろう。
遅れてきたリルテは絵を描いているシェルを見ることができなかったが、きっとリルテがよく知っている表情で描いていたに違いない。
きっとシェルは「絵を描く」という「職業」につきたいのだ。
リルテが両親や姉のような音楽家になりたいと考えているように。それは自分にとっては大切な夢だ。
きっとシェルにとっても簡単に触れてほしくない大切な夢だと思う。だからリルテはゆっくり待とうと思っている。
シェルが話してくれるその時まで。