〜第二章〜
「ただいま帰りました」
自宅の大きな扉を開くとシェル担当のメイドが慌てて奥から飛び出してきた。
「お、おかえりなさいませ!お嬢様!ご連絡いただければドアをお開けしてお待ち致しますのに」
どうやら休憩中だったようで、急いで付けたであろうカチューシャが盛大にずれている。
「メル。身だしなみはレディが一番優先すべきものだわ」
「え?ああー!わたしったらはしたない…。も、申し訳ありません、お嬢様!ただいま…」
大慌てに拍車がかかり、カチューシャは逆方向に盛大にずれてしまった。よく見るとエプロンも微妙にずれている。余計なお世話とは思ったが、シェルは小さく呪文を唱えた。
「あ、あらら?いろいろとぴったりフィット…」
メルは昨年からシェルの家で働くようになった新米メイドだ。新米という言葉では言い訳できないほど失敗をやらかすが、細身の身体を精一杯動かしてあきらめずに頑張る姿はシェルを含む家人から愛されている。  唯一メイド長だけは一人前のメイドとして育てるため厳しくあたっているが、それを受け入れて頑張っていく強さがメルにはあるようだ。
シェルはようやく落ち着いたメルにお弁当箱を預け自分の部屋へと向かった。
ここはリュミナス王国の王城に程近い貴族特区。リュミナス王国は王城を中心としていろいろな地区が同心円上に続いている。
貴族特区より外側には芸術特区や商業区、庶民の居住区などが広がっている。
シェルの家は過去の功績により貴族の認定を受け特区に住まいを構えている。リュミナス王国では貴族は世襲制ではなく、能力によって毎年変遷していくので長い間貴族であり続けるのは難しい。シェルの家系は女王を輩出したことはないものの、代々王室に能力の高い魔女を送り込んでいる優秀な家ということで知られている。特区の中でもかなりの古参の家系である。
シェルの母は女王候補になったこともある優れた魔力の持ち主で、国の気象を司る魔術師として王室で多くの魔女を従える立場にいる。父も魔法は使えないものの、その卓越した頭脳で女王をサポートする宮廷仕官として日々働いている。
当然一人娘であるシェルにも大きな期待がかけられており、子供のころから女王となるべく教育を受けている。
しかし…
シェルは自分の部屋に入るとそのまま窓辺に向かった。シェルの部屋からは貴族特区の外側に広がる芸術特区が見下ろせる。
王立魔法学校で大の仲良しリルテが住んでいる地区だ。
「隠し事か…」
芸術特区を見つめながらシェルはつぶやいた。お昼休みにマールに指摘されたことを思い出す。二人とも気付いているようだが無理に聞いてこないところは彼女たちの優しさの表れだろう。
確かにシェルには心にしまってあることがある。父にも母にも家庭教師にも、仲良しの二人にもまだ話してはいない。
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