シェルは早くいつもの自分に戻ろうと、部屋の明かりを付けて勢いよく立ちあがった。
「本当に何でもないの。ごめんなさい。支度をするから待っててくれる?」
シェルの家庭では食事をする際には専用の正装がある。物心ついたときから行っていることなので、最近までどの家庭でもそうであると思っていた。はじめてマールの家に招待されたときは、マールの家族全員がお泊りでもないのに大荷物でやってきたシェルを見て目を丸くしたものだ。
食堂に下りる支度をはじめたシェルを、なおも心配そうに見ていたメルは意を決したように口を開いた。
「シェル様。差し出がましいお願いを申し上げてもよろしいですか?」
「お願い?」
シェルは支度の手を止めてメルを見た。メルは真剣な表情でシェルを見つめている。心から自分を見てくれている瞳。
そういえば今日の昼休みにも同じような光を持った瞳を見た。
「わたしを描いていただけませんか?」
「メル……」
ここにも自分を真剣に気遣ってくれる瞳があることに気恥ずかしさを覚えたシェルは、メルから視線を外してイーゼルを見た。メルはシェルの視線の先に自らの視線を合わせて言葉を続けた。
「うまく言えないのですが、わたしは絵を描かれているときのシェル様を見るのがとても好きなんです。