〜第二章〜
シェルは早くいつもの自分に戻ろうと、部屋の明かりを付けて勢いよく立ちあがった。
「本当に何でもないの。ごめんなさい。支度をするから待っててくれる?」
シェルの家庭では食事をする際には専用の正装がある。物心ついたときから行っていることなので、最近までどの家庭でもそうであると思っていた。はじめてマールの家に招待されたときは、マールの家族全員がお泊りでもないのに大荷物でやってきたシェルを見て目を丸くしたものだ。
食堂に下りる支度をはじめたシェルを、なおも心配そうに見ていたメルは意を決したように口を開いた。
「シェル様。差し出がましいお願いを申し上げてもよろしいですか?」
「お願い?」
シェルは支度の手を止めてメルを見た。メルは真剣な表情でシェルを見つめている。心から自分を見てくれている瞳。
そういえば今日の昼休みにも同じような光を持った瞳を見た。
「わたしを描いていただけませんか?」
「メル……」
ここにも自分を真剣に気遣ってくれる瞳があることに気恥ずかしさを覚えたシェルは、メルから視線を外してイーゼルを見た。メルはシェルの視線の先に自らの視線を合わせて言葉を続けた。
「うまく言えないのですが、わたしは絵を描かれているときのシェル様を見るのがとても好きなんです。
真剣な表情をされているのに、すごくうれしそうで、楽しそうで、お話をしていないのにシェル様のお気持ちが伝わってくるんです」
メルのまっすぐな想いにうまく言葉が出てこなくなってしまったシェルは、メルに視線を戻してそっとその手を取った。
「……メル」
「何でもおっしゃってくださいね」
そう言いながらメルは握られた手を引きよせてシェルを力強く抱きしめた。
「わたしでは頼りにならないかもしれませんが、いつでもお側にいさせていただきますから」
「頼りにならなくなんてないわ。いつもありがとう、メル」
悩んだままでもいい。簡単に答えを出せることではないのだ。これからの日々がきっと自分に未来をくれる。
その未来に向かって頑張っていこう。
「メル。わたしね、人間界での修行頑張る。完璧にこなしてみせる。帰ってきたらメルを描くわ。いいえ、描かせてほしい。お願いします!」
「お嬢様…」
メルはさらに強くシェルを抱きしめた。まだシェルに出会ってから一年ほどしか経っていない。だが、しっかりしている反面想いを内にためこみ不器用に生きているシェルを愛おしく思う気持ちは日に日に高まっていく。
「メ…メル…苦しいわ…」
「きゃー!!ごめんなさい!お嬢様!」
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