〜第三章〜
一昨年までのコンテストは当時まで工房を守っていたマールのおばあちゃんとママが共同でコンテストに出ていた。
しかし昨年のコンテストはママが初めて一人で臨んだコンテストだった。コンテスト当日はお店を休みにして、マールたちは 家族総出でママを応援に行った。みんなが胸をどきどきさせてコンテストを見守っていたが、中でもずっとママを見てきた おばあちゃんは瞳を固く閉じて一心にママの入賞を願っていた。悠然と見ていたのはひいおじいちゃんとひいおばあちゃん だけで、いつもは楽観的なマールさえも緊張して、固唾を飲んで見守っていた。そんな緊張に耐えられなくなったマールは、 大声でママの応援を始めた。
『フレー!フレー!マーマ!フレー!フレー!マーマ!』
瞳を閉じていたおばあちゃん、目を真っ赤にしてママを見つめていたパパ、おばあちゃんの肩に手をおいて勇気づけていた おじいちゃん、修業先から応援に駆けつけてきたお姉ちゃんたち、いつもと違う雰囲気で今にも泣きだしそうだった妹たち、 そしていろいろな重圧で肩に力が入っていたママ。マールの大声援は家族全員の緊張を溶かしていつもの家の中の雰囲気を 思い出させるものだった。
『フレー!フレー!マーマ!フレー!フレー!マーマ!』
『フレー!フレー!マーマ!フレー!フレー!マーマ!』
『フレー!フレー!マーマ!フレー!フレー!マーマ!』
家族みんながマールの声援に呼応して大音量で応援をはじめた。マールも負けないようにどんどん大声を出していると、 次第に緊張がほぐれてきて楽しくなってきた。
横を見ればパパは肩に妹たち二人を乗せて応援しているし、おばあちゃんと おじいちゃんも肩を組んで身体を大きく揺らしながら応援している。そんな光景を見てもっともっとうれしくなったマールは、 久し振りに会ったお姉ちゃんたちに抱きついてみんなに負けないようにママに声援を送った。
家族の大声援を受けてママの肩から力が抜けてリラックスした表情になってきた。時間制限のあるコンテストの最中にも 関わらず作業の手を止めて家族を見ていたママは、朗らかな笑顔を家族に見せて作業を再開した。
残り時間をフルに活用したママのパンは見事入賞を果たした。トロフィーを持って家族の元に戻ってきたママは、いつも家で パンを焼いているような楽しそうな表情をしていて、マールたち家族もどうしてあんなに緊張していたのか不思議に思えるほど 楽しい気分になっていた。
『すっごく楽しかったね!』
当初の緊張も忘れ、汗をぬぐいながらマールが言うと、家族がマールを胴上げしはじめた。ママのパンがコンテストに入賞した こともうれしかったが、家族みんなが楽しそうにしていることが何よりマールにはうれしかった。そんな家族の輪の中で、 マールは今まで漠然としていた将来の夢が少しずつ形になっていくのを感じていた。
「マールちゃん、マールちゃん!今日はがっこう楽しかった?」
「楽しかったよー!じゃなくて!マールちゃんじゃなくてお姉ちゃんって呼んでよー」
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