〜第三章〜
妹たちはリルテとシェルが大好きだ。なかなか時間が取れないシェルはあまり来れないのだが、リルテはよく家に遊びに 来る。マールのことをお姉ちゃんと呼んでいたはずの妹たちに、いつの間にか“マールちゃん”が定着してしまった。
“お姉ちゃん”という響きがなんとなく大人になった気分がして好きだったマールはちょっとだけ不満なのだ。
「まあまあ、いいじゃないの。二人ともマールが大好きなんだから」
「うん!マールちゃんだいすきー!」
妹たちはママのお手伝いをしていたようだ。見たところむしろ邪魔をしているようにしか見えないが、マールのママは 全く意に介さず微笑んで妹たちを見ている。とは言え、妹たちもママがお仕事をしていることは分かっているので、あくまで それは遊びではなくお手伝い。遊びたい盛りの妹たちはお手伝いをしながらもしっかり遊んでくれるマールが帰ってくるのを 毎日楽しみに待っているのだ。
「よーし!じゃあまずはお手伝い開始ー!」
「らじゃー!」
マールは妹たちと一緒にパンの籠をつかむと、お店に通じるドアに向かって走り出した。ママの焼きたてのパンを一刻も早く 届けるために。
「焼きたて持ってきたよ〜!」
「おや、マール。おかえり。今日は楽しかったかい?」
お店につながるドアを勢いよく開けて品出しをしていたパパの元に籠を手渡したマールは、ドアから飛び出した勢いそのままに 答えた。『今日楽しかった?』はマールの家族の合言葉だ。
「うん!今日はね久しぶりにリルテとシェルと一緒にお昼ごはん食べたんだよ!」
「そうかそうか。ママ特製のパンは食べてもらったのかい?」
「もっちろんだよ!おいしいパンはみ〜んなに食べてもらわなきゃ!」
王立魔法学校にはいわゆる学食と呼ばれるものもあり、大勢の生徒たちの食事を賄っている。
生徒たちは学年が上になればなるほど学食の使用頻度があがっていくが、マールたち初等科の生徒や中等科の生徒は お弁当を持ってくることが多い。ママは毎日いろんな種類のパンをマールのために焼いてくれる。マールは自分が食べる以上に 友達みんながママのパンをおいしそうに食べてくれるのがうれしいのだ。その感覚がいかに重要なのかは、残念ながらマールは まだ気づいていない。
「そういや、お友達にはいつマールのパンを食べてもらうんだい?」
「まだまだまーだだよ!おっいしいパンじゃなきゃダメだもん!」
マールは最近工房のオーブンを使わせてもらい、パンを焼く練習をしている。昨年のコンテストを見て以来、どうしても やりたくなったのだ。クラスの平均より下の方に位置するマールの魔力ではまだうまく焼くことはできない。
一日一回お店を閉めた後に使うことを許されたマールは、ママに手伝ってもらって毎日練習している。
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