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『パッショネイト・メロディ 1』

その時の未羽には、特に悩みごとはなかった。
否、悩みごとがない、というのが悩みごとだと本人はぼんやりと思っていた。
高校への進学にしてもそうだ。
特別に行きたいと熱望する高校もないし、高校進学を絶望視するほどの成績でもない。
自分はこのまま、仲良しの子たちと一緒に、家から通える私立の女子校に通うのだろうと思っていた。

「あーあ、何だかつまんないなー」

風呂上りに心地よいソファにゴロ寝しながら、中学の帰りに寄ったコンビニで買ってきたお菓子の袋を開ける。

「こう……湧き上がるようなパッションがほしいのよね〜、人生変えちゃうような、さー」

ブツブツ言いながら、バリッと煎餅をかじった。
ボリボリと不機嫌に煎餅を噛み砕きながら、未羽はチラッとドアの向こうを見る。

「やーん、ケンちゃんったらぁ、も〜」

ドアの向こうでは、姉が彼氏と電話していた。
聞けば聞くほど不愉快になるような甘ったるい声で、思い切り猫をかぶりまくっている姉は、自宅から電車で片道1時間半の私立の女子校に通っている。
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たかが『制服が可愛いから』という理由で、わざわざそんな遠い高校に通うなんて……と未羽は思ったのだが、実際、姉の着ている制服は可愛くて、受験を目前に控えた今では、姉の言うことも少しはわかるような気がした。
とはいえ、どんなに制服が可愛くても、未羽には3年間もの長い期間にわたって、往復3時間もの通学に耐えられそうにもない。
なので、未羽は進学先は姉の高校は除外し、徒歩通学のできる高校を選んでいる。
とはいえ、この高校へ行くことにも、未羽は迷っていた。
女子校なのは良いとしても、制服が時代を感じさせる灰色のボックス型のプリーツスカートで、これがまた、すこぶる可愛くないのだ。
近隣の学校からは、その制服の見た目のイメージから『動く墓石』などと有り難くもないあだ名をつけられていて、この地味すぎる制服を着ることになれば、あの可愛い制服を着た姉に馬鹿にされきった目で見られることは火を見るよりも明らかだった。
……すんごいブルー。
そう思いながら、次の煎餅へと手を伸ばす。

「え〜、次の週末にお泊まり〜? 無理だよぉ、ウチが厳しいの、ケンちゃんだって知ってるでしょぉ〜?」

それにしても、あの語尾をやたらと延ばす喋り方はどうにかならないものかと、未羽は眉間にしわを寄せた。
なるべく聞かないようにしようと思っているのに、聞こえてくるのだから仕方がない。
というか、姉は自分の携帯電話を持っているのに、何故、それで通話しないのか。
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