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ゆうなの演奏が3曲続いた後は、休憩に入ったらしい。
頭を深く下げてから、鍵盤楽器を置いて後ろに下がったゆうなに、かぐらがペットボトルを差し出している。
楽しそうに笑っている二人を、ただ未羽は見つめていた。

「ねぇ、ちょっと未羽! 待ってたのよ、わたしたち!」
「あー……うん、ところであの人、誰?」

怒っているユカに目もくれず、かぐらを見つめたままきいてみた。

「ああ、ゆうなさんっていうの。かなり前から、ここでストリート・ライブやってるらしくて、こないだユカとたまたま通りがかって、すごく良かったから、未羽ちゃんにも聞かせてあげたいねって……」
「そうじゃなくて。ゆうなさんの隣にいる、あのオダンゴ頭の人」

嬉しそうに説明するナオミの言葉を遮ってきいてみる。
しかし、ナオミは首をかしげただけだった。

「さぁ……初めて見たけど? でも、ゆうなさんの演奏、ステキでしょ?」
「……」

未羽はじっとゆうなを見た。
確かに、ナオミの言う通り、ステキな演奏だったと思う。
けれども、何か物足りない気がする。
否、足りない、のではなく、あまりにも与えられる感情が多すぎて、受け止めきれないフラストレーションが残っているような感じだった。
あの音の中に、しっかりと演奏者であるゆうなの感情は感じられるのに、心は揺り動かされはしたものの、沸き立つような心境にはならなかった。
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それよりも、あのたどたどしい演奏の方が、より深く心に残っている。
……あの人、また演奏してくれないかな。
期待をこめてかぐらを見つめた。
その視線に気づいたのか、ゆうながこちらへと軽くウィンクをする。
それから、かぐらへと何事か囁いた。
かぐらは顔を赤くして、未羽を見る。
こくっと頷いて、置いてある楽器へと進み出る。

「かぐらちゃんの演奏を聞きたがってるお客様が何人もいらっしゃるみたいなので、次は、かぐらちゃんのナンバー! 慣れてない子だから、いじめちゃダメだよ?」

いたずらっぽいゆうなの紹介に、ぺこりと頭を下げたかぐらは、息を大きく吸い込んで、鍵盤に指を乗せた。
優しい音が周囲を満たす。

「……!」

やっぱり、この音だ!
未羽は確信した。
確かに、ところところメロディが怪しかったり、詰まったりして、練習不足は否めない。
けれど、それを補って余りある才能を感じられる。

「頑張ってー、頑張ってー!」

気がついたら、周囲の観客と一緒になって、声援を送っていた。
かぐらが照れたような、けれど、嬉しそうな表情で微笑む。
その微笑みは決して自分だけに向けられたものではないとわかっていたが、それでも、未羽はかぐらが喜んでくれたことが嬉しかった。
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