 |

『小さな決心2』

結局、あの後、ライブが終了するまで、織歌は小夜子とその場に留まっていた。
本当なら、かぐらの演奏が終わった時点で帰宅しても良かったのに、何故か、その場を離れたくなかったのだ。
……もう一人の自分が、かぐらとゆうなの演奏をもっと聞きたがっていたからなのかもしれない。
そんな考えに行き当たってしまって、織歌はゾクッと身を震わせた。
まるで自分の中に、もう一人、自分がいるような感覚……。

「ありえないわよ、そんなこと」

五線紙に向かって、ボソリと呟く。
イライラした気持ちを吹っ切るように、耳に残る旋律を追いながら、五線紙に書き込んでゆく。

ゆっくりと目を開ける。
見慣れた風景だった。
目の前には、書きかけの五線紙が散らばっている。
どうやら、自分は小夜子に言いつけられた課題をやりながら眠ってしまったらしい。
椅子に座ったままで眠ってしまったせいか、身体中の関節が痛い。
痛みが出ないように注意しながら、ゆっくりと身体を起こす。
そして、諦めた気分で、置いてある時計を見てみた。

「……今日も遅刻、か」
|
 |


ため息混じりに呟いて、織歌は椅子から立ち上がる。
――時計の針は、9時を5分ほど過ぎた時刻を指していた。

織歌が中学校に到着したのは10時を少し過ぎたころだった。
当然、授業開始時間より大幅に遅刻である。
が、授業途中で織歌が入ってきても、教師は何も言わない。
クラスメイトがヒソヒソと喋る声が聞こえてくる。

「私語は慎みなさい!」

織歌が自分の席についた途端、教師の叱責が飛んだ。
不自然に静まり返った教室で、織歌は小さくため息をつく。
……こんなことは日常茶飯事じゃないの。
机の上、きつく組み合わせた手を見つめながら、織歌は唇を噛む。
……気にしてはいけない。この学校の教師は、二波家の名前を使って生徒を集めているのだから、自分は、ここに在籍しているだけで良いのだ、雑音に耳を傾けてはいけない。
強く握りすぎて、指がプルプルと震えている。

「えー……次は、山崎、読んでみろ」
「はい」

教師に当てられた生徒が立ち上がり、朗読を始める。
教師は、教科書さえ出そうとしない織歌に注意しようとはしなかった。

家政婦が用意してくれた弁当は、まるで砂を食べているように感じられる。
せめて少しでも気分を浮上させようと、教室を出て、中庭にやってきたのだが、まったく気分は晴れない。
|
 |