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ため息をつきながら、黄色い卵焼きを口に運んだ時、どこかから声が聞こえてきた。

「あの子……二波さんって、高校、ドコ行くのかなぁ?」

自分の名前が出たことにドキッとして、思わず口の動きを止めた。

「つか、日本の高校に進学するの? いきなり音楽留学しそうじゃん、イメージ的に」
「そうだよねぇ……二波さん、思いっきり浮いてるし。日本の学校は合ってないよね」
「でもさ、二波さんのあの性格で、外国の個人主義の荒波を渡っていけるとは思わないんだけど」

……勝手なことを言っている。
ムカムカする気持ちを飲み込むように、口の中の卵焼きを飲み込んだ。

「どうなんだろ? でもさ、近場だとH女学院かな、音楽科あるし」

H女学院なら織歌も知っている。
女の子に人気の可愛い制服で生徒を集めているという、あまり偏差値の高くない学校だったように記憶している。
確か、母親の仕事の関係者が通っているという話を聞いたような、聞かなかったような……。

「H女かぁ。……あそこ、校則厳しくないし、制服チョー可愛いから狙ってたのに、二波さん行くなら、ちょっとなー……」
「そうだよね、いかにも『ワタクシはアナタがたとは違うのよ!』みたいな態度取られちゃ、やりにくくて仕方がないよね!」
「しょーがないよ、だって二波さんは声楽家の二波響一朗の娘で、『天才フォルテール奏者』なんだもん。天才様には、わたしたち
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下々の人間なんて低俗すぎて、お付き合いできないんでしょ」
「そうかもねー!」

複数の足音と共に、笑い声がだんだん遠のいていく。

「……」

織歌は膝の上の弁当箱を見つめた。
既に食欲なんて消え失せてしまっている。

「……わたしの評価なんて、こんなものよね」

自嘲混じりに弁当箱の蓋を閉めた。
クラスメイトのことを低俗だなんて、思ったこともない。
ただ、接点がなかっただけだ。
いつの間にか、自分がクラスメイトの輪からはみ出ていただけで、自分から出て行こうなどと思っていたわけでもない。
それなのに、あんな誤解をされているなんて、ショックだった。

「……」

織歌は弁当箱を片付ける手を止めた。
……ショック?
その感情が正しいのだとしたら、自分は何にショックを受けているのだろう?
誤解されていたこと?
クラスの輪からはみ出してしまっていたこと?
それとも……?

「あの、二波さん」

声をかけられて、織歌はハッと我に返った。
見ると、クラス委員長が、おどおどした様子で立っている。
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