小さな決心 3

ゆうなが織歌の疑問の核心に触れる。
織歌はごくりと息を呑んだ。

「……わかりません」

しかし、ゆうなはまた表情の読めない穏やかな微笑みを浮かべただけで、織歌の疑問に答えてはくれなかった。

「ふふ……わからないってことは、キミは恵まれているんだろうね、音楽の才能に。でもね、それは『普通じゃない』ってことに気づいた方が、今後のためだよ?」
ドキリとした。
普通じゃない――それは、常々、織歌が考えないようにしてきたことだから。

「……わ、わたしは普通です!」

ゆうなは再びクスッと笑った。

「じゃあ、訊くけど。普通の人がフォルテールを演奏できるのかな? フォルテールは魔導楽器だよ、魔力がなきゃ、音を出すことさえできないってこと、忘れてない?」
「……!」
「キミには音楽の才能がある。それはとても恵まれたことなんだよ。だから、恵まれてない人が、何故、できないのかがわからない。できなくても当然なのに、できない、イコール、努力が足らないと思ってしまう」
「……」

ゆうなの声が、胸の奥に染みこんでくる。
できなくても当然、ということがあることを肯定する言葉に、心のどこかがホッとしたような気がした。

「……そして、そんな考えで行動するってことは、とっても不幸なことだって、あたしは思う」

泣きたくないのに、涙が出てきた。
自分の感情さえもわからなくなる。

「……かぐらちゃんはね、恵まれた才能を持っているのに、ずっとそれに気づかずに、自分には何もないって思い続けてきた子なんだよ。あたしはそれがもったいなくて、おせっかいを焼いているだけ。……ま、下心もあるけどね」

悪戯っぽく微笑む、ゆうな。
ゆうなの指が伸びてきて、織歌の涙をそっと拭ってくれた。
慌てて織歌は自分の手の甲で涙を拭く。

「下心って……ゆうなさんは、かぐらさんの才能の手助けをすることで、ご自分がメジャーになろうと思っていらっしゃるんですか?」

非効率的だと思った。
ゆうなほどの実力があるのなら、かぐらの成長を待たずに、勝手にデビューした方が早いはず……。

「ふっ、あははっ。なるほどね、キミの周囲には、そんな風にキミを見る人が多いんだね」
「え……?」

ゆうなの言葉に、織歌はただ戸惑うしかなかった。

「だって、下心って……!」
「ふふ、人間の下心って、十人十色なんだよ」

クスクス笑いながら、ゆうなは織歌の頭を優しく撫でてくれた。
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