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「そうだね……あたしの下心は、先輩社員が新人の女の子に優しく仕事を教えてあげる時の心境に、ちょっと近いかもね」

意味がわからず、織歌は首をかしげた。

「わからないのなら、わからないで構わないよ。あたしも、これ以上、言うつもりはないし」
「そう、ですか……」

……結局、疑問は解消されなかった……。
がっかりした気分で織歌は俯いた。

「キミの疑問は、かぐらちゃん本人が解決してくれそうだね」
「え?」

思わず顔を上げる。
クスッとゆうながまた笑った。

「どうして、あんなに下手なのに、かぐらちゃんが観客に応援されるのか――それは、あの場にいた人たちに聞いても、きっとキミにはわからないと思うよ。今のキミは、それを理解するだけの準備ができてないからね」
「……準備、なんて必要なんですか?」
「モチロンだよ。キミは、数字を覚え始めた幼稚園児に、因数分解を教えたいと思う?」

織歌はゆるゆると首を振る。
ゆうなに『幼稚園児並み』と遠まわしに評されても、不思議と不快には感じなかった。

「そうだろう? 理解するには、経験を積み重ねる他はないんだよ。キミの場合、手っ取り早いのが、かぐらちゃんのすぐ近くで、かぐらちゃんを観察することじゃないかな。とにかく、頭で考えても
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わからないのなら、肌で感じるしかないよね」
「……」

ゆうなの言葉に、織歌はゆっくりと頷いた。
確かに、自分には経験が足りないと思う。
フォルテールを上手に演奏することはできても、観客を感動させられないのは、この経験が足りない部分のせいかもしれない……。

「お時間を取っていただき、ありがとうございました」

ぺこりと頭を下げる。
ゆうながまた笑った。

「キミ、いつもそんな感じなの?」
「え?」
「それじゃ、友達になれないよ?」

織歌は目を見開いて、ゆうなを見つめる。
苦笑しながら、ゆうなが織歌の頭を撫でる。

「あたしはキミと友達になりたいと思ったんだけど……キミはそうじゃない?」

問われて、ふるふると首を振った。
なれるのなら、友達になりたいと思う。
否、なってほしい。

「なら、お時間うんぬんは不要だよ。今のキミがするべきことは、あたしに名前を教えてくれることと……そうだね、あたしのほっぺにキスしてくれることかな。それで十分!」
「キ、キス……?」

ゆうなは悪戯っぽく笑っている。
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