小さな決心 3

「ほっぺにチューくらい、誰でもやってるよ」
「……」

織歌は少し考えてから、ぎこちない微笑みを浮かべた。

「あの……今更ですが、二波織歌と言います。これからも、その……」

おずおずとゆうなに近づいた織歌は、ゆうなの肩に両手を置いて、自分よりも少しだけ高い場所にある頬に、そっと唇を寄せた。

「……その……よろしくお願いします」

カーッと顔が熱くなる。
恥ずかしくて顔が上げられない。
そっと肩を抱かれて、ゆっくりと織歌は顔を上げた。

「嬉しいよ、織歌ちゃん。これからもよろしくね」
「……はい」

小さく頷くと、ゆうなは肩を押しやって、身体を離してくれた。

「あ、それから、一つ忠告」
「はい?」
「キスは大好きって気持ちを伝えるためのツールだよ。だから、それ以外ではやらない方が良いかもね」

織歌は唖然とした。

「……だましたんですか!?」

ゆうなは、クックッと忍び笑いを漏らしている。

「だましたなんて、人聞きが悪い。織歌ちゃんはあたしのことが大好きじゃないの?」
「……!」

反論もできず、かといって、納得することもできなくて、織歌は悔しそうにゆうなを見上げた。

「あたしはすごく嬉しかったよ、織歌ちゃんにキスしてもらって」
「……」

ゆうなの満面の笑みを向けられて、不思議と織歌の感情が静まってゆく。
同時に、こんなに喜んでくれたのだから、まぁ良いか、という気分と、あんなキスごときでこんな顔を見せてくれるなんて、という、嬉しさが高まってきた。

「ゆうなさんって、不思議な人ですね」

織歌の言葉に、ゆうなはニヤッと人の悪い笑みを浮かべた。

「うん、良く言われるんだ、それ」

自宅に戻って、ベッドに腰掛ける。
ゆうなの言葉は、半分ほどわからなかったが、小夜子と似たようなことを言っていたような気がする。
つまり、今の自分は普通じゃないから、普通の人のことがわからないらしい。

「……確かに、そうかもしれないわ」

今まで、そんなことを考えたことがないわけではない。
けれど、考えてしまえば、自分にとって不愉快な結論に至りそうで、考えないようにしていただけなのだ。
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