未来への希望 1

「ま、将来のことを決める時間はまだたっぷりあるんだから、気楽にしてれば?」
笑いながら、ユカが背中をバンと叩いてくれた。

「やーん、ユカったら痛いよぅ!」

思い切り叩かれたせいで、背中は痛かったけれど、どこか心が楽になったような気がした。

  「おい、上月、ちょうど良かった」
家に帰ろうと、廊下を歩いていた未羽は、進路指導担当の教師に呼び止められた。

「来たぞ、書類」

が、教師の言葉の意味がわからず、首をかしげる。

「おいおい……桜立舎学苑高等部の資料を請求してやったじゃないか。  おまえのための受験用の願書だろ。忘れるなよ」

苦笑混じりに教師に言われ、そう言えばと思い出した。

「えー……でも、まだ受験するって決めたワケじゃないんですけどー」
「まぁ、そう言うな。  選択肢は多い方が良いだろ、特に、上月みたいに滑り止め必須の生徒には」

意地悪に言われ、未羽は思わず唇を尖らせた。

「ぶー!」
「ははは、図星だったか、悪い悪い!」
「悪いなんて思ってないクセに!  センセの意地悪、根性悪!」
「まぁ、そう拗ねるな」
封筒でポンと頭を叩かれて、思わず、封筒を受け取ってしまった。

「資料、おまえ用に、1部余分にもらったから、家でも読んでおけ。  受験する気になったら、いつでも言いに来いよ」
「はーい!」

取り敢えず、教師に対しては適当に良い返事をしておいて、未羽はさっさと封筒をかばんに仕舞い込んだ。
それから、とぼとぼと歩き出す。
いつも元気な自分らしくなく、何だか心の奥がすっきりしない。

「……調理師、かぁ」

ナオミの夢を見るような表情が蘇ってくる。

「そーいえば、ユカはジャーナリストになりたいって言ってたっけ……」

2人とも、おぼろげながらでも、将来のビジョンを持っている。
それに比べて……。

「あーあ、将来、かぁ!」

大きく伸びをして、空を見上げる。
夕刻に近づきつつある空は、深い藍色の色が混じり始めていた。
その場に立ち止まって、しばらく空を見上げていた未羽だったが、背後から自転車のベルを鳴らされて、慌てて脇に退いた。

「……」

ちょこんとガードレールに腰掛けると、ごそごそとかばんを開けて、つい先ほどもらった封筒を取り出してみる。

「……桜立舎学苑高等部 入学案内在中。何だかなぁ……」

中身を見る気になれなくて、未羽はその封筒をまたかばんに仕舞い込む。
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