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バタバタしていると聞いていたから、職員室は蜂の巣を突いたような騒ぎになっているのかと思いきや、整然としていて、ちょっと拍子抜けする。

「こんにちは、上月未羽さんですか?」

パッと見、外国人の教師らしき人物が出てきて、流暢な日本語で喋り始めた。

「ひょ……っ!?」

が、未羽はその外見に慌ててしまい、目を白黒させている。

「今回は二度手間をかけていただき、申し訳ありませんでしたわね」
「あっ、あいあむ、ス…ピーク、ジャパニーズって……あれれ、スピーキング?」

クスクスと笑う声に我に帰る未羽。

「大丈夫、日本語は通じていますよ、ミス上月」
「あ」

一旦停止してから、ゆっくりと相手を見上げてゆく。
教師らしいその女性はクスクスと楽しそうに微笑んでいた。

「やーん、あたし、のっけからやっちゃったよーぅ!」
「安心なさい。願書提出時の失敗まではチェックしませんから。
もっとも、我が校の生徒になるのに相応しくない言動があれば別ですが」

笑いながらも、今、一番、未羽が気にしていることを教えてくれる。

「よ、良かったーぁ……」

正直に肩の力を抜いた未羽に、女性はまたクスクスと笑った。
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「アタシはスミス・F・フローレンス。この学苑で英語の教師をしています。
今日は学苑長も教頭も不在なので、アタシが学校を案内させていただきますわね」
「はーい、よろしくおねがいしますー!」
「うふふ、元気が良いのね」

クスクスと笑い続けているスミス先生の後について、未羽はスリッパをまたパタパタさせながら、歩き始めた。

「そうですか……ミス上月は、声楽を極めてみたいと思ったのが受験動機なのですね」
「は、はい」

ホントはちょっと違うけど、と未羽は胸の中でペロッと舌を出す。

「この学苑は平和で、勤務している者が言うのもおかしいかもしれないけれど、とても良い学苑だと思いますよ。ただ……」
「ただ?」
「ただ、あまりに平和すぎて、生徒たちは卒業後、あの社会の荒波を無事に乗り越えられるかどうかと思ってしまうときはありますね」

そう言って、スミス先生は苦笑するような微笑みを浮かべた。
ゆうなも似たようなことを言っていたと思い出しつつ、「まぁ、お嬢様学校だもんねぇ」と未羽が考えた時、背後から「スミス先生!」と呼び止める声がした。
振り向くと、ツインテールの生徒が教科書を持って、申し訳なさそうに立っている。

「どうしましたか、ミス二条院?」
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