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二波さんって結構ニブイよね、と笑われて、織歌は何ともいえない気分になった。
馬鹿にされたはずなのに、笑われたことがそんなに不愉快でもなく、むしろ気分が良かったのが不思議だった。

自宅の防音室でフォルテールに向かう。
鍵盤に指を乗せ、そっと音を出す。
澄んだ音が室内一杯に広がった。

「最近、音が伸びてきているわね」

小夜子にも褒められた。
この指導者は穏やかな性格をしているものの、音楽、特にフォルテールに関しては異常なほどに厳しいのがわかっていて、今まで一度も褒めてもらったことがなかった。
その小夜子が、褒めている。
振り返って、小夜子の顔を見てみたが、ウソをついているわけではないようだ。

「そういう褒め方をしていただけるなんて、思っていませんでした」
「……あなたはわたしをどういう目で見ているの?」

小夜子は呆れているらしい。

「あ……いえ……、そういうつもりでは……」

慌ててフォルテールに向き直ると、背後でクスクスと笑う声がした。
織歌の行動がおかしかったらしいが、織歌には何故、笑われているのかがわからない。
混乱したままフォルテールの鍵盤に指を乗せると、案の定、何ともいえない揺れまくった音が出た。
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「織歌、動揺しすぎよ」

クスクス笑いながら、小夜子がポンと織歌の肩を叩く。

「ホラ、深呼吸なさい」
「……」

その言葉に従って、何とか大きく呼吸をした。
少し、気分が落ち着いてくる。

「それはそうと、進学先、桜立舎に決めたんでしょう? もう願書は提出したの?」
「ええ、決めた翌日に書いて、小夜子先生の推薦状を添えて、書留で送りましたけど?」
「……書留?」

何故か、小夜子は怪訝そうな顔をしている。

「先生……?」
「桜立舎の受験願書って確か、遠距離でない限り、基本は生徒本人の持参が原則だったはずだけど?」
「え?」

織歌は唖然とした。

「そんなこと、パンフレットにも、どこにも書いてませんでしたよ?」
「変ねぇ……クレーム多くて変更したのかしら……?」
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