HONESTIES 2

集中力があるのは良いことらしいのだが、普通の生活を送る上では、こうして時々支障が出てしまう。
この集中すると何も見えなくなってしまうところも、何とか改善しなければいけない。

「ごめんなさい、お待たせしてしまいましたわね」

いつの間にか、目の前に白人系の女性教師が立っていた。
この教師が目の前に来たことも気づけなかった。
やっぱり自分はダメかもしれないと思ったところで、目の前に右手を差し出された。
反射的に握ると、何故かクスッと笑われる。

「……?」

何故、握手しただけで笑うんだろう?
不思議に思って見上げると、女性教師は柔らかな微笑みを浮かべた。

「あなたは日本人なのに、握手する習慣があるのですか、ミス二波?」

自分の握手のしかたがおかしかったわけではないのだと知って、織歌はホッとする。

「両親の仕事の都合で、いろいろな方と接することが多いですから」

そう答えると、教師は大げさな身振りで驚きを表した。

「OH、そうでした!  ミス二波のお父様は、声楽で有名な二波響一朗サンでしたわね。  そして、あなた自身も既に単独でリサイタルを開催できるほどのフォルテールの腕前だとか」

職員室に響くような大きな声に、気恥ずかしくなってうつむく。

「……いえ、わたしなんてまだまだです」

実際、有名な父の名前があったからこそ、今の自分があると織歌は思っていた。
確かに血の滲むような練習を必死でしてきたが、それは、有名な父の顔に泥を塗るわけにはいかないという思いから出た、織歌にとっては当然の行動だった。
磨きに磨いた演奏技術はともかく、織歌自身の演奏が聴衆を感動させるに至るレベルではないことは、誰よりも織歌自身が良く知っている。

「うふふ、謙虚なのね、ミス二波は。特別待遇入学候補生なのに、本当にそう思っているらしいところが、好感度大、ですね」

教師はクスクス笑っている。
織歌は眉を寄せた。
……特別待遇入学候補生……?
初耳だ。

「あ、申し遅れました。アタシはこの学苑で英語を担当している、スミス・F・フローレンスです」
「あ……二波織歌です。わたしのプロフィールは、もうご存知みたいですけど」

そう言った後で、嫌味っぽく聞こえたかもしれないと不安になった。
チラッとスミス先生の表情を伺ったが、特に気分を害した様子はなく、取り敢えず、ホッとする。

「本来なら、学苑長か教頭が事務面を、生徒会執行部が学苑生活の案内をするのですが、今年は案内書類に不備があっただけでなく、どういうわけか受験希望者が多くて、正直、手が回っていないと
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