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☆ ☆ ☆
窓の外を光が飛ぶように流れていく。
ゆうなのライブが終わると、既に夜になっていた。
少しだけゆうなと喋ってから、通勤客でごった返す駅構内に入る。
いつもなら不快に感じる電車の振動が、今日は何故かひたすら心地よい。

「……」

静かに息を吐き出す。
まだ、耳の中にゆうなの演奏曲の旋律が残っている気がする。
心地よい旋律。
けれど、かぐらの曲を聴いた時のような、血液の流れが変わる感覚は得られない。

(要するに、あたしはかぐらさんの曲の方が合ってるってことなんだよね!)

そんなことを胸の中で呟いて、未羽はただ後ろへ流れていく、街の明かりを眺めていた。
☆ ☆ ☆
自宅の最寄り駅にも、ストリートミュージシャンがいた。
彼らの怒鳴るような歌声を耳にしていると、だんだんと自分も歌いたくなってくる。

「うーん……」

けれど、この場所で歌うのは、ストリートミュージシャンたちの歌声が邪魔になるし、自分の歌声も彼らの邪魔になるだろう。
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そう考えて、未羽は彼らの音が聞こえてこない場所を探して、駅周辺をさまよってみた。
やがて、少し奥まった場所、閉店した雑居ビルの入り口に、ちょうど良い場所を見つける。
別に誰かに聞かせるわけではないので、人通りが少ないのは好都合だった。
マイク代わりの携帯電話を握り締める。

「ここでいいかな……」

すぅっと息を吸い込んで、のどを開くような感覚で、静かに声を滑らせた。
覚えた旋律には歌詞はない。
伝えるべき『言葉』がない分、声帯を楽器にして、声という音に感情を乗せた。
胸の底に残っている旋律を、声帯を使って奏でていく感覚に身を任せていると、時間を忘れてしまうことが多々あるのだが、どうやらこの時も、同じことが起こってしまったようだ。
ハッと気がつくと、周囲に人だかりができていた。

「―――ひえぇっ!?」

パチパチと拍手が沸き起こる。
思ってもいなかった出来事に、未羽は慌てて足元においていたカバンを掴むと、「ごめんなさーい!」と喚きながら、そのままその場所を逃亡した。
☆ ☆ ☆
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