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「ひゃーん、なにアレ、何あれ!?」

逃げ出したその足で、バタバタと走る。
それから、誰もいない場所に来たことを確認してから、やっと足を止めた。
心臓がバクバクしているのは、全力で走ったから、というだけではない。
あんな風に、見ず知らずの多数の人に歌を披露したことなんてなかった。
合唱部や音楽部に入っていたら、そういう機会もあったのかもしれないが、多数の中の一人だと、埋もれてしまう感じがして嫌だった。
どうせ歌うなら、一人で舞台に立ちたかった。
だから、今までそういった部活にも入らなかったのだが……。

「……でも、気持ち良かったな……」

ボソリと呟く。
その途端、誰かが背後から未羽の腕を掴んだ。

「きゃーっ、きゃーっ、きゃーっ!?」

パニクった未羽は、その手を振りほどくと、つい反射的に、手にしていたカバンで殴りかかる。
が、聞こえてきた声に、ハッと我に返った。

「いっ!? ちょっ……こら、未羽!
痛いってば、も……いったーい!」
「……あれれ、ユカ?」
「ユカ?じゃないよ、このバカッ!」
「さっき、未羽の歌声が聞こえてきたから、ユカちゃんとふたりで追いかけてたんだよ」
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痛かったのだろう、涙目になっているユカの背後から、ひょこっと顔を出したナオミが微笑んだ。

「追いかけて……って?」
「だって、未羽ちゃん、逃げちゃったから……。
でも、あんな風に、一人で人前に出て歌ったの、初めてじゃない?」

こっくりと頷くと、ナオミはクスッと笑う。

「さっきの歌、すっごく良かったよ!」
「ホント!?」
「あそこで逃げずに、もう少し歌えていれば、きっとたくさんファンができたと思うよ?」

ナオミの言葉に、胸の奥が熱くなる。

「えー……えへへ……。
あたしも、目を開けたらあんなに人が集まってて、びっくりしちゃってさー……思わず逃げちゃったんだよね」
「未羽ちゃん、びっくりしちゃったの?
逃げなくても良かったのに」
「だって、思ってもみなかったんだもん。
あんなにたくさんの人が……あたしの歌を聞くために、足を止めてくれるなんて……」
「アンタの歌にはそれだけの力があるってことだよ」

ユカがコツンと頭を叩いてくれる。
いつもなら反撃するところだったが、叩かれた場所が何となくくすぐったい。

「うーん……あたしの歌の力じゃなくて、かぐらさんのメロディのお陰だよ」

本心からそう言うと、ユカとナオミが呆れたような表情で顔を見合わせた。
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