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かぐらさんを先輩って呼んで、ぎゅって抱き締めて、んでもって、あたしもぎゅってしてもらうんだー!
えへへー!)

そんなことを考えている未羽は、受験生らしいプレッシャーとはすっかり無縁の存在だった。
☆ ☆ ☆
筆記試験は5教科、各40分で、教科ごとに10分の休憩を挟むことになっている。
音楽科で受験科目が5教科というのは珍しいことだと、未羽の勉強を見ながら、姉の早弓がボヤいていたのを思い出す。
あまり受験に興味のなかった未羽にしてみれば、姉が何故ボヤくのかが良くわからなかったが、どうやら、周囲の受験生も姉と同じ意見なようだ。
数学の試験問題が配られ、試験開始になった時、周囲から次々に溜め息が聞こえてきた。
姉から、周囲の受験生と差をつけたければ、理数系を重点的に!と言われ、特訓までされた未羽としては、配られた問題など、大した壁ではなかった。
20分ほどの余裕を残して問題を解き終わって、後はしっかり見直しをして終了する。
休憩の10分の間は、受験生の溜め息が飛び交っていた。
どうやら、音楽科の試験というものは、国語と英語の2教科と実技試験というのが常識なのだと、囁き交わされる言葉で初めて知った。

(そんなの、受験要綱に書かれてたことじゃんねぇ。
5教科が嫌なら、受験しなきゃいいのに)
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消しゴムに貼られたシールを指先で撫でながら、未羽は唇を尖らせる。
そのシールは、ユカとナオミがわざわざ神社にまで出向いて、合格祈願のために買ってきてくれたシールだった。

(ユカとナオミのためにも、あたし、ぜーったい合格するんだから……!
で、合格して、かぐら先輩と……えへへ……)
☆ ☆ ☆
昼食を挟んで、午後は実技試験だった。
声楽での受験者はピアノやバイオリンに続いて受験者数が多いので、一番最後になると説明されて、未羽はこっそりと唇を尖らせる。
一番最初に受験するグループの中には、今年の受験生では唯一のフォルテール奏者がいると聞いたものの、今の集中力をそぎたくなかった未羽は、無視を決め込むことにした。
筆記試験で使った教室がそのまま待機室になり、未羽は座ったまま、大きく伸びをする。
待機中は何をしても自由とのことだったが、他の受験生の妨げになるという理由で、学苑内の見学は不可になっていた。
ふと、周囲を見回すと、大抵は文庫本を読んでいたり、マンガを読んでいたりしたが、中にはカバンを枕に昼寝を決め込む勇者さえもいる。
何もすることがなくなった未羽は、カバンの中から携帯プレイヤーを取り出して、かぐらの音に浸ることにした。

(かぐらさんよりも、あたしの心を鷲掴みにするフォルテールの音なんてないよねー!)
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