友達というもの 2

今頃、実技試験を受けているであろうフォルテール奏者のことがチラッと頭を掠めたものの、席を立つこともなく、消しゴムに貼られた『合格祈願』のシールを指先で撫でながら、柔らかな旋律に耳を傾けることにした。

☆ ☆ ☆

何かが肩に当たった気がして、はっと目を開ける。
どうやら、後ろの席の子が実技試験に呼ばれたらしい。
目を擦りながら、未羽はキョロキョロと周囲を見回した。
教室内に残っているのは、自分を含めて、あと6人。
実技試験が終わった生徒は、順次帰宅しても良いことになっているが、実技試験が終わった後なら、校内を見学しても良いことになっている。
口元に風を感じて、はっと手をやると、指先に濡れた感触がある。

「う……」

うたた寝していただけでなく、ヨダレまで垂らしていたとは……!
誰にともなく赤面すると、未羽はかけっぱなしだった携帯プレイヤーをオフにすると、はずれかけていたイヤホンを耳から外す。
それから、うーん、と伸びをした。
ふと窓側を見ると、窓の外の景色は、既に日が傾きつつあるようだ。
あとしばらくしたら、夕焼け色に染まり始めるだろう。

(試験の後の校内見学に参加したかったけど……そうしちゃうと、帰るのが遅くなっちゃうだろうな……)

そんなことを考えて、窓際へ行こうと椅子から立ち上がったとき、教室のドアが開かれた。

「上月さん、いらっしゃいますか?」
「あ、はい!」

振り向くと、桜立舎学苑の制服を着た上級生が立っていた。
どうやら、入学試験の雑用の手伝いは、在校生がやっているらしい。

「受験番号34番の上月未羽さん、でしたわね?  そろそろ出番ですよ」

一瞬だけ、足が震えたような気がしたが、ニッコリと微笑む顔に勇気をもらった気がして、未羽は大きく頷いた。

「はいっ、頑張ります!」

☆ ☆ ☆

案内されたのは、音楽室だった。

「受験番号34番の上月未羽です。  よろしくお願いいたします!」

ピアノの前には、制服を着た生徒が座っている。
どうやらこの人も、お手伝い組の上級生らしい。
ぺこりと頭を下げると、ニコッと柔らかな微笑みが返される。
未羽はますますこの学苑が好きになった。
審査員をしてくれる先生の席に、先ほどのスミス先生が座った。
それを見て、未羽は大きく深呼吸した。
右手に隠し持っていた消しゴムのシールに、そっと唇を当てる。
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