I'll do my best. 1

「たまたま、ね」

小夜子がクスクスと笑う。

「今となっては、本当にたまたまだったのよ。  あの人は2コ上の先輩で、わたしの憧れのヒトだったの」

いつになく甘い小夜子の声を聞きながら、織歌はうっかり悩みを相談してしまった自分を振り返ってみる。
何故、あの場で、今まで思い悩んでいたことを口にしてしまったのか――。
それは、無意識ながらも、あの女性の懐の広さを感じて、その懐に飛び込んで、甘えてみたくなったからではなかっただろうか。

『他人だけじゃなくて、自分にも優しくあれ』

スミス先生の優しい声で、そう言われた時、心のどこかの固まった部分が、氷のかけらのように溶けてなくなってしまうような錯覚を覚えた。
学生時代の小夜子とスミス先生のことは知らないが、きっと昔の小夜子は、スミス先生の外見ではなく、そういうひととなりに魅かれたのだろう。

「憧れの、ヒト……」
「そう。わたしだけじゃないわ、スミス先輩に憧れている子はたくさんいたわ。  わたしは……たまたま、あの人の目に留まって、仲良くしてもらっただけ」
「たまたま、で、仲良くしてもらえるものでしょうか?  先輩が特定の後輩を特別に可愛がるのには、何か理由があるのではないでしょうか」

疑問を小夜子にぶつけてみる。
が、小夜子は穏やかに微笑んだまま、織歌の肩を抱き寄せた。

「あなたも、先輩になって後輩ができれば、きっとわかるわ。  先輩に認められたくて、必死になってしまう後輩の気持ちが。  そして、そんな風に必死になった後輩の可愛らしさが……」
「…………」
「きっと大丈夫。  あなたにもわかるようになるはずよ」

何も答えられなくて黙っていると、小夜子が小さく笑った声が降ってくる。

「桜立舎に入ったら、きっと、大人になっても、心の奥底で大切に思い続けられるような人に会えるかもしれないわね」

織歌は何も言わないまま、小さく頷いた。

   ☆ ☆ ☆

結局、小夜子の桜立舎学苑での思い出話を聞いていたら時間が遅くなってしまい、レッスンするだけで、一日が終わってしまった。
なので、今日は学校の帰りに、ゆうなへのお礼の品を買いに行こうと、織歌は決心した。
そして、その足で、K駅前のあの場所へ行くのだ。
浮き立つような気持ちを覚えて、自分の席にカバンを置くと、緊張した面持ちで、委員長が近寄ってきた。

「お、おはよう、二波さん……」
「おはよう……」

委員長の硬い表情に、織歌は眉を寄せる。
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