I'll do my best. 2

ゆうなからのCDを一人でゆっくりと集中して聞いてみたかったのだ。
いつも暗譜に使っている、座り心地の良いお気に入りの椅子に座って、リモコンを操作した。
やがて、流れてきた音は、聞きなれた楽器の、聞いたこともない柔らかな旋律だった。
この演奏の主が誰かは聞かなかったけれど、ゆうなから知らされなくても、それが誰なのか、織歌にははっきりとわかった。

「…………」

流れてくる旋律に、織歌はただ息を呑む。
まるで頭を殴られたようなショックを感じた。
決して上手だとは言えない、つたない演奏ではある。
けれど、そのつたなさを感じる部分を、丁寧さがカバーしている。
それだけでなく、演奏自体に演奏者本人の人の良さがにじみ出ているようで、聞いているだけで、どこかホッとするような落ち着きさえ感じられる気がする。

「…………」

流れる音に、織歌はただ身をゆだねていた。
柔らかな音が、ささくれ立った神経を慰めて、鎮めてくれるような感覚。
まるで、心の傷が癒されて、ふさがっていくようだ。
溢れそうになる涙を認めたくなくて、織歌は上を向いて、目元を交差させた腕で覆った。
こんな演奏……自分にはできない……。
自分の演奏が技巧に頼っただけの、空虚な演奏だということは、嫌というほど自覚している。

けれど、CDから流れてくる演奏は、荒削りすぎて、失笑さえ浮かびそうなほどに下手なくせに、こうして聞くものを感動させているのだ。

「…………」

演奏は技巧だけではないと、わかっていた。
けれども、それを実感したのは、初めてだった。
技巧に頼らなくても、こうして、こんなにも織歌の心に訴えかけることができるのだ。
良い意味で、自分の既存観念を打ち砕かれたような気がした。
織歌は、心地よい音の空間に心をさまよわせながら考える。
昔の、フォルテールを習い始めた頃の自分が、このことに気づいて、こういう演奏を目指していれば、こんな風な演奏ができただろうか……。
馬鹿げた考えに、織歌はゆっくりと首を振って、椅子から立ち上がる。

「……空恐ろしいわね」

この演奏がいつ録音されたものかはわからないが、この演奏主が、正しい訓練をして、演奏上の技巧を身につけたとしたら―――。
知らず、口元に笑みが浮かんだ。

「やはり、わたしはあの学苑へ絶対に入学しなくては!」

自分が成長するために。
―――そして、あの人の成長を見届けるために。


< 続く >
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