『I'll do my best. 3』

そして、受験当日。
起きることができずに遅刻して、受験できなくなるのは避けたかったので、前日は昼寝をし、半徹夜で出かけることにした。
用意された席に着いた織歌は、ゆうなから貰ったかぐらのCDを聞こうと、イヤホンを手にした。
その途端、背後から肩を叩かれる。

「ねぇ、あなた、どこの学校の子?」

振り向くと、見知らぬ制服を着た二人の生徒が立っていた。

「…………」

怪訝な表情でじっと二人を見ていると、二人は織歌の表情に気づくことなく、勝手に喋り始めた。

「ねぇ、知ってる?  今年は受験生の数が多いんですって!」
「去年の受験生って、1クラス分しかなかったんだって」
「なのに、今年は2クラス分だもん、やんなっちゃうよね!」
「…………」

織歌は軽い苛立ちを覚え始める。
黙って、眉間にしわを寄せて、二人を見てみるが、二人は気づく様子もなく、受験に関する愚痴めいた発言を繰り返している。

「つか、去年だったら良かったよね。  今年の受験生になっちゃって、もう、サイアク〜!」

この言葉は、ただでさえ、受験当日でナーバスになっていた織歌の忍耐袋の緒を切れさせるには十分だった。

「……サイアクだと思うのなら、その受験票を破って、今すぐ帰りなさいな」
「な……ッ!?」
「受験生が何人いても、実力がトップクラスなら、嫌でも入学できるものでしょう?  自信がないクセに、グダグダ言っているヒマがあるのなら、試験開始までの短い時間で復習でも何でもすればいいのよ」
「…………!!」

絶句した相手を無視して、織歌は自分の席について、イヤホンを装着した。
倍率がどれだけ高くても、わたしはできることをできる限りやるだけ。
―――全力で試験にあたるだけ。
二人組は、織歌に対して何やら文句を言っているようだったが、柔らかな音の奔流に心をゆだねることにして、織歌は雑音を排除することに決めた。

☆ ☆ ☆

昼休み。
家政婦さんが作ってくれたお弁当を黙々と口に運びながら、午前中の試験のことを考える。
筆記試験は特に問題はなかった。
桜立舎学苑の入学試験は、5教科の筆記試験と実技試験から成っているが、自分が調べた限りでは、音楽科の入学試験としては、かなり特殊な部類に入るようだ。
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