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実技試験が必須なのはともかく、筆記試験が5教科というのは、勉強する範囲が増えて、受験する側としてはかなり厳しいはずだ。
桜立舎学苑という教育機関が、音楽教育だけではなく、学力にも力を入れているということのアピールかもしれないが、これはこれで、くだらない受験生をふるいにかける効果もあるだろう。
2つ目の試験は数学だったのだが、座席のあちこちから、溜め息が聞こえてきた。
今朝、織歌の気分を害したあの二人組も溜め息をついたのだろうと思うと、織歌は胸のすく思いがした。
そして、そんな自分の性格の悪さをこっそりと自嘲する。

「…………」

こんな風に性格が悪いから、友達もできないのよね……。
そんなことを考えて、一口カツを口に入れた時、教室のドアが開いて、スミス先生が入ってきた。

「ああ、みなさん、そのままで……楽にして聞いてください。
午後の実技試験は、受験者数の少ない楽器から執り行われます。
試験順の3人前に呼びにまいりますので、なるべく教室から出ないようにしてください。
一応、この教室には、受験者数の多いピアノや声楽、バイオリンの受験者はいらっしゃいませんので、黒板に順番表を貼っておきます。後で確認しておいてくださいね。
何か質問は?」
「はい!
実技試験待ちの間に、校内を見学しようって思うんですけど、いいですか?」

教室の端に座っていた生徒の質問に、スミス先生は穏やかな微笑を返す。
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「ごめんなさいね。
校内探検は、試験中の生徒の妨げになる可能性もあるし、呼びに来た時にいないと試験が後回しになってしまうこともあるので、全員の実技試験が終わるまでは、この教室にいてくださいね。 希望者には、試験終了後、アタシが責任を持って、校内をご案内いたしますわ」

教室内がざわついているが、特に反対意見は出ず、スミス先生はそのまま微笑みを残して教室から出て行った。
織歌は少し迷ったものの、行儀が悪いのを承知の上で、食べかけの弁当箱を置いて、黒板に貼られた表を見に行った。
順番表の上から2番目に自分の名前を見つけると、もう用はないとばかりに、席に戻って、昼食を再会する。
周囲の受験生から、「一番最初じゃなくて良かった」という声が聞こえてきたが、今は昼食を片付けることに専念し、噂話は黙殺した。
☆ ☆ ☆
耳から流れ込んでくるCDの心地よい音に精神を開放していると、案内のスミス先生がやってきた。
呼ばれた最初の3人の内の一人として、音楽室へ行く。
一人はそのまま音楽室に入り、織歌ともう一人は、音楽室の隣の準備室に入る。
持参のソルフェージュを手早く準備しながら、チラッと見ると、もう一人の受験生はマリンバの演奏者だったらしい。木琴に似た楽器を、手伝い要員らしい上級生の手を借りて、準備しているところだった。

「あなたはお手伝いは……いらなさそうね」
「はい、もう準備はできました」
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