I'll do my best. 3

上級生に声をかけられて、織歌は緊張しながら申し出を辞退する。
断られたことに気を悪くした様子もなく、上級生は見事な黒髪を揺らして、クスッと笑った。

「……何か?」

笑われたことにムッとして聞くと、相手は柔らかな微笑みを浮かべてゆっくりと首を振る。

「ごめんなさい、あなたのことを笑ったわけではないの。  随分と緊張しているみたいだけれど、あなたのその様子を見ていると、去年の自分を思い出してしまっただけよ、気にしないで」
「…………」

織歌が絶句したしたその瞬間、隣の部屋からハープの音色が流れてきた。
試験会場である音楽室に一番最初に招き入れられた受験生は、ハープの演奏者だったようだ。
ハープの甘美な音色に聞き入ってしまい、織歌がハッと我に返った時には、手伝いの上級生達は全員退室した後だった。
残されたマリンバの奏者と共に、流れてくるハープの演奏に耳を傾ける。
そして、先ほどの上級生の言葉を思い出してみた。

『随分と緊張しているみたいだけれど、あなたのその様子を見ていると、去年の自分を思い出したのよ』

『去年の自分』と発言したということは、さっきの上級生は2年生……桜立舎学苑での呼び方では『2期生』なのだろうかと考える。

どんな楽器で、何を演奏したのかはわからないが、きっとあの黒髪の人は、緊張しやすい性質なのかもしれない。
そう考えると、見知らぬ上級生に親近感が湧いた。

☆ ☆ ☆

やがて、ハープの演奏が終わり、音楽室へと繋がっている準備室のドアが開け放たれる。
上級生達の手を借りて、ハープが準備室へ運び込まれ、入れ替わりに、いつでも演奏できるよう準備を完了させたフォルテールを運び込む。
先ほどの上級生がすれ違いざまに「頑張って」と囁いてくれて、小さく頷き返した。
フォルテールの前に立ち、審査員席を見る。
設えた席には、学苑長を中心に、スミス先生と、あと一人――きっと来年度の新入生担当の学年主任あたりなのだろう――が座っていた。
織歌はそっと息を吸い込む。
この『舞台』は、今まで経験してきた、どの『舞台』とも違う。
自らの意思で立ち、そして、その『勝利』を掴むことを熱望している『舞台』など、今まで経験がない。
そう考えると、不意に足元から不快な震えが上がってきた。
ふと、織歌は考える。
ゆうながCDに入れてくれた演奏の主であるあの人も、去年、この場所に立ったのだろうか……。
かぐらのことを考えた途端、不思議なくらいに落ち着いてきた。
いける……。
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