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あの人のように、フォルテールが歌っているみたいな演奏はできないけれど、でも、きっと、フォルテールを歌わせるようにって心がければ……。

――きっと、今までで一番の演奏ができる……!
織歌は口元に笑みを刻み、深く頭を下げる。
「受験番号38番、二波織歌です、よろしくお願いします。
演奏曲は……」
☆ ☆ ☆
演奏終了後、一旦、元の教室に戻り、帰宅しようとした織歌は、廊下に出たところで、先ほどの上級生に呼び止められた。

「二波織歌さん……ですわよね?
学苑長がお話したいことがあるそうですが、お時間はありますか?」
風が吹いて、日本人形のようにまっすぐな上級生の黒髪が揺れる。

「時間は……大丈夫です。
けれど、わたしに何の用事があるんですか?」
「さぁ……残念ながら、わたしはその内容までは存じません。
学苑長から、実技試験の審査があるので、少しお待たせしてしまうことになってしまいますが、あなたにお話したいことがあると、伝言を頼まれただけなので」
「はぁ、別に構いませんけど……」

まっすぐな眼差しに、無碍に帰ると言い張るのも申し訳ないような気がして、織歌は言葉を濁す。
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上級生はホッとした微笑みを浮かべると、フォルテールを持っていない方の織歌の手を掴んだ。

「では、行きましょう」

その言葉に、織歌は怪訝な顔をする。

「行く、って、どこへ?」
「生徒会室、ですわ」
☆ ☆ ☆
連れて行かれた生徒会室で、上級生に紅茶を振る舞われた。
天野まりと名乗ったその上級生は生徒会長であり、入学試験の手伝いをしている在校生は、生徒会役員とボランティアの生徒だと説明した。
会話は途切れがちながらも、予想以上に美味しい紅茶と、強要されない会話に、穏やかな時間が流れる。
生徒会室は音楽室から離れているとはいえ、窓が開け放たれている音楽室からは、受験者の演奏が風に乗って切れ切れに聞こえてきていた。

「二波さんは、どうしてこの桜立舎を受験しようと思ったの?」

そう質問され、逆に聞き返してみる。

「そういう天野会長も、何故、この桜立舎を受験されたのですか?」

質問を質問で返されたことに、まりは驚いたらしい。
目を丸くして織歌をしばらく見つめ、それから、クスッと微笑んだ。

「残念ながら、わたしは幼稚舎の頃から、この学苑の生徒よ。
だから、あなたとは少し立場が違うわ」
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