『出会いに万歳!』

見つめあいの沈黙を先に破ったのは、未羽だった。

「あたし、上月未羽。  声楽で受験して、今、終わったトコ。あなたは?」

質問を向けられて、織歌はハッと我に返る。
「二波織歌よ。  わたしはフォルテールで受験したの」

織歌がそう言った途端、未羽の表情はパッと輝いた。

「へぇ、今年唯一のフォルテールでの受験生って、あなただったのね!  すっごーい!」
「は、はぁ……」

何がすごいのか良くわからなかったが、何やら喜んでいるようだし、水を差すのも申し訳なく思った織歌は、黙って頷くことにした。

「フォルテールで受験したってことは、フォルテールが弾けるってことだよね!?」
「…………」

当たり前のことを言う未羽に、あきれ半分で頷く。

「ね、何か弾いてみてくれる?」

その言葉に、織歌は絶句した。

「ここで……?」
「あ!」

ハッとした未羽が周囲を見回すと、自分達と同じ受験生や、在校生が、クスクス笑いながら、自分達を見ている。

さすがの未羽も、学苑長室前の廊下での演奏はまずいと思ったのだろう。

「うー……また今度でいいや」

しょんぼりした未羽は、まるで叱られた子犬のようで、自然と織歌の口元がわずかに持ち上がる。

「別にいいけど……また今度って、いつのこと?」

意地悪っぽくそう訊いたら、未羽はキョトンとした顔をした。

「入学してから、だけど?」

まるで当たり前のことをなぜ聞くのかと言わんばかりの表情に、織歌は唖然とした。

「あなた……合格するつもりなの?」

今度の質問は、意地悪するつもりもなく、純粋な疑問から発せられたものだったが、未羽はいたくプライドを傷つけられたようだ。

「当たり前でしょ!  そのために、あたし、お父さんを説得して、お姉ちゃんに勉強を見てもらって、今日まですっごく頑張ったんだから!  この学苑に入れないんだったら、浪人するんだもん!」

未羽のその言葉に、この少女も自分と同じくらい、この学苑に入りたいと思っているのだと知った織歌は、最初に抱いていた反感が急速に消えていくのを感じた。
むしろ、逆効果で、今ではこのやや空気の読めないところのある少女に好感さえ抱いている。

「そう……だったの?  無神経なことを言って、ごめんなさい」

そう言って頭を下げると、未羽がぶんぶんと手を振った。
   
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