『巣立ちの日』

学校からの帰り道、自然と未羽の足は軽くなる。
だって、今日は――。

「ただいまー!  おかーさん、桜立舎からお手紙、届いたってー!?」
「あはは、文字通りに飛んで帰ってきたわよ、この子ったらぁ!」

リビングに飛び込むと、母ではなく、姉がぶ厚い封筒と同封されていたと思しき書類をバタバタさせて笑っていた。

「つか、お手紙ってなんなのよ、未羽。  あたし、ちゃんと『合格通知が届いたよ』ってメール打ったじゃん」
「そうだけどっ!  なんでお姉ちゃんが、あたしの手紙、先に見てんのよ!」

昼休みに母親からメールが届いてから、早く帰宅したいとはやる気持ちを何とか抑えて、頑張って午後の授業も受けてきたのに。
やっとの思いで帰宅したら、姉が先に開封していたなんて……!

「見なきゃ、合格したのかどうかわかんないじゃない」
「てか、お姉ちゃん、学校はどうしたのよ!」
「あたしは試験休み中。  中学とは違うのだよ、中学とは」
「だからって、あたしの通知を、あたしより先に見るなんて許せなーい!」

ソファを挟んで、姉と合格通知の取り合いをしていると、背後からバシッと何かで頭を叩かれた。

「未羽!  帰ってきたなら、さっさと着替えていらっしゃい!  桜立舎の寮に入るなら、ちゃんとしないとダメでしょう!?」

振り返ると、母親が雑誌のような本を持って仁王立ちになっている。

「上月家のしつけはどうなっているんだ、なんて言われて、恥をかくのは未羽だけじゃないのよ。  これから入寮まで、ビシビシ鍛えますからね、覚悟なさい!」
「うぇ〜ん、お母さん、ひどいー!」
「あんたのためじゃん。  あんなお嬢様学校に行くのに、最初っから庶民全開でどーすんのよ。いじめられちゃうわよ?」
「付け焼刃でも何でもいいから、少しでもお嬢様っぽくしないと!」

姉と母に左右から詰め寄られて、制服姿のまま、じりじりと未羽は後ずさる。
「ううう……なにもそんなにムキにならなくても……ね?  きっと何とかなるって……ね?」

未羽の言葉に、姉と母が同時に反応する。

「何ともならないわよ」
「何とかならなかったらどうするのよ」
「ひゃーん!  異口同音が、ナンチャラサラウンドで聞こえるよぅ、左右からの台詞は微妙に違うけどー!」

頭をフルフル振りながら、未羽が声を上げる。

「もうっ!  何でもいいから、着替えてらっしゃい!」

母の雷が落ちる頃には、頭をフルフルと振り過ぎたせいで、未羽は目を回しそうに鳴っていた。

「……おかーさーん、止めるの遅いよぅ……」
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