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☆ ☆ ☆
合格通知が届いて以来、上月家の食事時はテーブルマナー講座になってしまった。
それだけではなく、未羽の立ち居振る舞い全てにチェックが入る。
廊下を歩く時に足音が立つと注意され、風呂上りに下着姿で歩いても注意され、リビングのソファに寝転んでいても注意される。
入寮後、未羽が庶民だからという理由で、いじめられないようにと気遣ってくれる気持ちは嬉しいが、正直、未羽にとってはありがた迷惑でもあった。

「浪人しなかったのはいいけど、ホントにお嬢学校に行くだなんて、大変なことになったよねぇ、未羽も」

胸に赤いリボンをつけながら、ユカが笑う。

「もぉ家にいるのがストレスだよぅ……いったぁっ!」

自分の胸にリボンのついたバッジをつけようとした途端、うっかり指先を刺してしまい、思わず未羽は悲鳴を上げた。
大丈夫?と言いながら、ナオミが近づいて、未羽の指先のキズを確かめてくれる。

「でも、未羽ちゃんのことを思ってくれてるんでしょう?」

生徒手帳に挟んでいた絆創膏を取り出して、手早くそれを未羽の指先に巻いてから、ナオミは未羽の胸にリボンバッジをつけてくれた。
バッジに垂れ下がったリボンには『卒業おめでとう』と印字されてある。

「あーあ、とうとう卒業かぁ」
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自分のリボンを指先で弾きながら、ユカがポツリと呟いた。
それから、未羽を見て、ニカッと笑う。

「アンタが無事に卒業できるなんてね。
ましてや、あの桜立舎に行っちゃうなんて思わなかったなぁ」
「ぶーぶー!」

ユカの軽口に、未羽は唇を尖らせる。

「卒業式の日にまで、そんなイジワル言わなくてもいいじゃんー!
バカユカっ!」
「もう、ユカも未羽ちゃんも、卒業式の前にケンカしないの!」

ナオミが仲裁に入る。
いつもの風景。
いつものやり取り。
それも、今日で終わるのだ――。

「ま、ナオミに免じて、今日は許してあげるよ。
じゃ、講堂に行こうか」

ユカの言葉に、ナオミと共に、頷いた未羽だった。
☆ ☆ ☆
卒業式は、リハーサル通りに進んだ。
たかが中学校の卒業式だ、泣くこともないだろうと思っていたが、講堂のあちらこちらからすすり泣く声が聞こえてくると、つい、涙腺がじわりと緩んでしまう。
既に涙目になってしまっていることはわかっていた。
けれど、そろそろ限界だ――。
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