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ポケットから取り出したハンカチで、そっと目元を押さえた時、無事に卒業式は終わってくれた。
喧騒に紛れて、未羽はホッとしながら教室に戻る。
それから、短いホームルームの後、帰るのが勿体なくて、けれど、誰かと喋ると泣いてしまいそうで、未羽は一人で校内をウロウロして思い出に浸ってみる。
しばらくしてから、教室に戻ると、教室には誰もいなかった。

「…………」

教室の窓の外には、懐かしい記憶を伴って、見慣れた景色が広がっている。
あのグラウンドでは、体育祭の日に転んで、膝を擦り剥いたこともあった。
あの銀杏の下では、知らずに落ちた実を踏みつけて、ユカに臭いとからかわれたこともあった。
それから、ナオミと一緒に、無断で忍び込んだ調理室で、杏仁豆腐を作ったこと。
できた杏仁豆腐はあまり美味しくなかったけど、そのほとんどをユカが文句を言いながら平らげてくれたこと。
後日、「ユカに美味しいって言わせてやるんだから!」と、ナオミがリベンジを果たし、本当に美味しい杏仁豆腐を3人で食べたことも。
3人で笑いながら、過ごした日々。
3年間の思い出が、胸によみがえる。

「あ、ここにいたんだ、未羽」

振り返ると、ユカとナオミが入ってきた。

「未羽ちゃんったら、ホームルームが終わったら消えちゃうんだもん、先に帰っちゃったのかと……」
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「あたしたち、仲良しトリオなのに、先に帰ってたんだとしたら、どんだけ冷たいヤツだよって、後で文句言いに行くところだったんだけどね」
「うん……ごめん、ちょっとフラフラしてたの」

少し謝って、また外を見る。
ユカとナオミも、窓際に来て、一緒に外を見た。
しばらく、3人で黙ったまま、ボンヤリと視線を遊ばせる。

「高校に行ったら、アンタはいないんだよね……」

ポツリとユカが呟いた。

「うん……、そうだね……。
あたしだけ、進路が違うもん」

未羽がそう言った後、ユカの向こうで、はぁ、と、ナオミが溜め息をついたのが聞こえた。
ユカがクスッと笑う。

「あたしさ……アンタに協力するよ、とか言ってたけど。
本心では、アンタが桜立舎を落ちればいいのに、って思ってた……って言ったら、どうする?」
「……え?」

ユカの言葉が理解できなくて、未羽はユカの顔を見た。
夕日でオレンジに染まったユカは、いつものように悪戯っぽい顔をしている。

「なーんてね、ただのヤツアタリ。
ジョークだよ、ジョーク」
「ユカ?」
「あたしたちを……、親友のあたしたちを置いて、先に夢に進むんだから、これくらいの暴言、許しなよね!」

そう言った途端、ユカの顔がみるみるうちに歪んでゆく。
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