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『ゴーイング・マイ・ウェイ』

未羽の中学の卒業式の翌日が、織歌の通う中学の卒業式の日だった。
蛍の光を卒業生で唱和した後、織歌は壇上でフォルテールの演奏を披露する。
講堂のあちこちから、すすり泣く声が聞こえてくる。
……ただ周囲の雰囲気に呑まれたのではなく、わたしのこの演奏で、感情を揺さぶられてくれた人が、この中にいてくれたらいいのに。
そう思いながら、織歌は鍵盤の上に指を躍らせることに集中した。
☆ ☆ ☆
フォルテールを手早く片付け、教室に戻ると、エリカがやってきた。

「織歌さん!
演奏、すっごく……」
「……?」

言葉を区切ったエリカに、織歌は首をかしげる。
エリカの頬を、何かがころりと転がり落ちた。

「すっごく…ステキっ、…だった、よ……!」
「え!?」

いきなり泣き出してしまったエリカに、織歌はただオロオロと周囲を見回した。
が、クラスメイトたちは、自分たちのお喋りに夢中で、織歌が困っていることに気がつかない。
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オロオロしながらも、織歌はしゃくりあげているクラス委員長の震える肩にそっと手を置いた。

「わ、わたし、なにかあなたを泣かせるようなこと、した?
ねぇ、泣かないで、お願いだから……」
「んもう、織歌さんのバカッ!」

泣き笑いの表情で、顔を上げたエリカは、きゅっと織歌の髪を引っ張った。

「いた……っ!?」
「こんな時なのに……もう、このニブチン!」
「え……えと……」

戸惑った表情のまま、織歌はしゅんとうなだれた。

「その……鈍くて、ごめんなさい」
「最後の最後なのに、締まらないなぁ……もう」

涙を拭きながら、クスクスとエリカが笑う。

「ねぇ、今度、あなたのフォルテールをちゃんと聞かせてくれる?」
「え?」

意外な申し出に、織歌は顔を上げた。

「観客は、あたしだけ。
ねぇ、いいでしょう?」
「…………」

涙で濡れた真剣な眼差し。
こんな表情で、こんな風にお願いをしてきた人は今まで自分の周囲にはいなかった。
織歌は嬉しいような怖いような戸惑う気持ちのまま、視線をさまよわせて、それから、きゅっと唇を噛んだ。
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