ゴーイング・マイ・ウェイ

「えと……」

いいよ、と言おうとした途端に、エリカが寂しそうに笑う。

「……いいの、ごめんなさい、わがままを言って。  織歌さんみたいに、やがて世界に羽ばたくのがわかっている演奏家に、こんなワガママなお願いは迷惑だよね。  困らせるつもりは……」
「い、いいよ……っ!」

エリカの言葉を遮って、思い切って言ってみる。
目を丸くして見上げてくるエリカは、どうやら固まっているようだ。
何故、固まっているのかがわからず、織歌は首をかしげる。

「あなたが私の演奏を、本当はどう思っているかは知らないけど、わたし、桜立舎で腕を磨くつもり。  今のままの演奏じゃ全然ダメだってわかったから……だから、わたし、もっともっと練習して、わたしの演奏の全てを磨くつもり」

今度は、エリカが首をかしげた。

「……織歌さん?  あの……何を言っているの?」

そんなエリカに、織歌は口元を無理に引き上げて、見よう見まねの微笑みを作りながら、問いかける。

「夏休みで、いいかしら?」
「え、何が?」

織歌が何を言っているのかわからず、エリカが問い返す。
エリカの言葉に、織歌は少しガッカリした表情を浮かべた。 

「わたし、寮に入るの。  入学した後、次にまとまった時間が取れるようになるのって、たぶん、夏休みだから。  日帰りできる距離だけど、日帰りだと落ち着けないでしょうし」

織歌の言わんとすることがわからなかったらしく、エリカはきょとんとしている。
しばらく考えた後、おそるおそるという感じできいてきた。

「もしかして……それって、さっき、あたしが演奏を聞かせてほしいって言ったことの、答え……?」

こっくりと頷く、織歌。

「それ以外に何があるの?」

しかし、エリカは不思議そうな顔をしている。

「あなたは、一人ぼっちのわたしに初めて声をかけてくれた友達で、わたしの恩人でもある人だから。  わたしの演奏で良いなら、喜んで聞かせてあげる。  それに、普通、友達のお願いは聞くもの、なんでしょう?」

しばらくの間、ポカンとしていたエリカだったが、その表情がだんだんと喜びの色に染まっていく。

「ホント!?  ホントに、織歌さんの演奏を聞かせてくれるの!?」

勢い込んだ様子のエリカに、織歌はビクッとして、慌てて一歩後退さった。

「で、でも、夏休みだったら、まだわたしの演奏技術は向上していないと思うの。  それでもいいなら……」
「ぜんぜんいいっ!  技術とかそんなの、あたし、ぜんっぜんわかんないしっ!  あたしがわかるのは、織歌さんがあたしのために、わざわざ時間をとって、演奏してくれるってことだけ!」
がしっと手を握られて、織歌はただ目をぱちくりさせる。
こんな経験は初めてで、どんな風にしていたら良いのか、まったくわからない。
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