ゴーイング・マイ・ウェイ

「ありがとう!  あたし、夏休みを楽しみにしてるね!」
「そんな……あの……、あまり期待しないでね……?」

ビクビクしながらそう言った織歌だったが、幸せそうな満面の笑みを向けられていることに気づいて、嬉しいやら恥ずかしいやら、自分の中に湧き上がってくる理解不能な感情にただ面食らった。
視線をさまよわせた後、チラッとエリカを見上げる。
エリカはまだ満面の微笑を浮かべていた。

「練習途中のつたない演奏を聞きたいなんて……変なの」
「…………」

織歌の言葉に、エリカは絶句したらしい。
それから、エリカは小さく笑う。

「もうっ、織歌さんったら!  最後まで、ゴーイング・マイ・ウェイなんだから」

何故、エリカが笑っているのかわからなかったが、織歌はこっくりと頷いた。

「ええ、わたしはわたしが信じた道を行くわ」
「んもう……織歌さんったら!」

突然、エリカにギュッと抱き締められて、織歌は慌てて、エリカの腕から逃れようとジタバタしてみる。
けれど。

「まったく……もう。  この朴念仁。あたしの気持ちくらい、察してくれたらいいのに……このトーヘンボク」

非難の言葉を涙交じりの声で囁かれて、織歌はふっと身体の力を抜いた。

何故、そうしたのかは、わからなかったけれど、そうした方が良さそうな気がして、両手をエリカの背中に回してみた。

☆ ☆ ☆

帰宅後、いつものように、織歌は小夜子に練習を見てもらっていた。

「最近、随分と音の伸びが良くなったわね」
「ありがとうございます」

褒められて、悪い気はしない。
特に最近は音の伸びに気をつけながら演奏をしていたのだから、それを褒められて、嬉しさもひとしおというものだった。

「けれど、音の伸びを気にするあまり、あなたが苦労して手に入れた技巧がおろそかになっているようね」

小夜子の言葉に、織歌は顔を上げる。

「……技巧……」

「そうよ、技巧も大切なの。  たしかに、演奏は技術だけではないわ。そして、それに気づくことができたのは、あなたにとって大きな進歩よ。  けれど、だからって、技巧をないがしろにしてもいいってものでもないのよ」
「はい……すみません、気をつけます」

織歌は自分の練習態度を反省した。
小夜子の言う通り、音が伸びることが嬉しくて、今まで頑張ってきた練習内容をないがしろにしていたのだから。

「……あなたとこうして練習するのは、もうすぐ終わるのね」
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